「のと熱中授業」第1講が開催されました!

 熱中小学校では、能登復興のために関心を繋ぐ活動として、2025年4月より「のと熱中授業」を開催することとなりました。 「能登の未来が 日本の未来になる」をテーマに、毎月1回のペースでオンライン授業を行います。 熱中小学校の先生とともに、能登で発見した情報をさらに学び、授業の形で発信することで、能登についての「関心を持ち続けてほしい」という現地のニーズに応えていきます。

 4月15日(火)、のと熱中授業1回目授業が開催されました。 1回目授業の講師には、公社)MORIUMIUSの立花貴先生、一社)のと復耕ラボの山本亮先生にご登壇いただきました。
 立花先生には、東日本大震災後のMORIUMIUSの設立から、「循環する暮らしの体験」を提供する石巻市雄勝町での取り組みと、今後の展望についてお話しいただきました。
 山本先生には、能登半島地震前からの取り組みと、地震後ののと復耕ラボについて、そして今後の活動予定などのお話しいただきました。その後、立花先生と山本先生お二人によるパネルディスカッションを実施。参加者からの質問にお答えいただきながら、能登の今後についてお話を深めていただきました。


 最後は、スペシャルゲストとして石川県の浅野副知事にもご登壇いただき、総評や今後の展望をいただきました。
 
 のと熱中授業の第1回目は、全国各地から188名という本当に多数の方に受講いただき大盛り上がりの中、終了しました。 ご参加いただいた皆様、ご登壇いただきました立花先生、山本先生、浅野先生、本当にありがとうございました。


◆立花貴氏講演レポート

「地域に未来をつくる——東日本大震災から能登へつながる希望」

 2025年4月15日に開催された講演会「能登の未来が、日本の未来になる」にて、公益社団法人モリウミアスの代表理事・立花貴氏は、東日本大震災の被災地である宮城県石巻市雄勝町における活動と、そこから得た地域再生の知見をもとに、持続可能な未来のつくり方について語りました。以下はその講演の概要です。


商社マンから非営利活動家へ

 立花氏は宮城県出身で、大学卒業後は伊藤忠商事に入社し、その後スタートアップ企業の社長として10年間活躍していました。しかし、2011年の東日本大震災をきっかけに、非営利の道へ転じ、被災地支援や子どもたちへの支援活動に取り組むようになりました。

 震災後、地元に戻った立花氏は、避難所で母親と妹の無事を確認し、すぐに炊き出しなどの支援を開始。やがてその活動が広がり、300人以上の子どもたちの習い事支援や、農業・漁業の生産者支援団体「東の食の会」など、様々な活動に発展していきました。


廃校から生まれた「モリウミアス」

 現在、立花氏が代表を務める「モリウミアス」は、震災で閉校となった旧雄勝小学校を再生した体験型宿泊施設です。活動の原点は、震災直後に給食を届けてほしいという地元の声でした。そこからアフタースクールや夏期講習といった学習支援を経て、徐々に体験学習を柱とするようになり、廃校の改修プロジェクトがスタートしました。

 資金がない中、地元住民やボランティアとともに手作業で校舎を改修。建物の基礎から屋根瓦までを手で直し、2年半かけて延べ5000人が改修作業に関わりました。建築家の隈研吾氏も設計に協力し、2015年7月、ついに「モリウミアス」がオープンしました。名前には「森と海と明日(us=私たち)」の意味が込められています。


「循環する暮らし」を体験する場へ

 モリウミアスは、子どもたちが五感を通じて「循環する暮らし」を学ぶ場です。薪を使った風呂・食事・暖房、山での間伐作業、敷地内で育てた米や野菜、生活排水の循環システム、食べ残しを鶏や豚に与え、その糞尿を堆肥化して畑に戻す、というように、すべてがつながった仕組みになっています。

 漁師体験では、地元出身の漁師とともに船に乗り、カキやホタテの水揚げを体験し、それを料理して食べるところまで学びます。夏には全国から子どもたちが集まり、都市部が8割、東北が1割、海外からも1割という構成で、7泊8日のプログラムを通じて自然と地域にふれあいます。


大人たちへの学びの場として

 子どもがいない季節には、企業や官僚の研修施設として活用されており、企業の社員が「循環する暮らし」を体験することで、価値観の転換やチームビルディングを行っています。特に特徴的なのが霞が関の官僚研修で、全省庁の職員が5週間、週替わりで滞在し、今年で13年目を迎えました。

 また、漁村留学という形で、公教育と連携しながら、小中学生を1年単位で受け入れる制度も始まりました。子どもたちは地元の学校に通いながら、モリウミアスでの暮らしを共にし、薪で炊飯し、風呂を沸かし、自分たちで生活を回す力を身につけています。


地域の未来を再生する

 活動はさらに広がり、旧雄勝中学校跡地を活用した「環境再生型農業」も始まりました。農薬や化学肥料を使わず、地元の竹や緑肥を用いた土づくりからスタートし、手作業でワイン用ブドウ1300本を植樹。今年中にはワイナリーの開設も予定されています。すでにナチュールワインは年間9000本を販売しており、5年後には雄勝産のワインが完成予定です。


「持続可能な地域」に必要な2つの視点

 立花氏は、震災がなかったとしても地域の9割の課題はもともと存在していたと指摘します。そして、持続可能な地域をつくるために必要なのは以下の2点だと強調しました。

  1. 多様な環境を地域内に持つこと
     外部から人や知恵を巻き込み、多様な人材と接点を持つことで、地域に変化と学びをもたらす環境が整います。

  2. 「ここで働きたい」と思える雇用の創出
     継続的に人が集まり、暮らしていける場所にするためには、魅力的で持続可能な働き方を生み出す必要があります。

最後に

 モリウミアスは、立花氏が語るように、寄付や補助金に頼らず、自立した収益構造を持つ公益社団法人として運営されています。また、講演料や出版印税もすべて施設運営に充てられており、特に「子どもの体験格差」への是正に注力しています。

 今回の講演は、能登の被災地支援に携わる多くの人々にとって、復興の道筋と希望を示すものであり、「未来を自らの手でつくる」という強いメッセージが込められていました。立花氏の実践を通じて、地域再生の可能性と、その先にある日本全体の未来が見えてきました。


◆山本亮氏講演レポート

「耕し、暮らし、つなぐ——震災から生まれる“豊かな未来”の兆し」

 本レポートは、能登半島地震の被災地から立ち上がろうとする人々の取り組みを伝えるため、のと復耕ラボ代表理事・山本亮氏による講演「耕す復興、実験する暮らし」に基づいてまとめたものです。山本氏は、能登での暮らしとその再生への強い想いを語りながら、地域の文化と自然、そして支援の循環を重視する視点を提示しました。


東京から能登へ——里山との出会い

 山本氏は東京・世田谷の出身で、東京農業大学在学中に能登と出会い、その景観と人々の暮らしに強く惹かれていきました。大学時代の調査旅行で訪れた能登の原風景は、農と自然と人との関係が密接に結びついた、豊かさに満ちたものでした。特に、ある農家の祖父が語った「山があるから食べ物に困らない。貧しくても人に優しくできるんだ」という言葉が、彼の人生観を大きく変えたといいます。

 卒業後は都市計画コンサルタントとして東京で働いたのち、輪島市に移住。地域おこし協力隊を経て起業し、「里山まるごとホテル」など、地域全体を活用した体験型観光事業を展開していました。


復耕ラボの設立と理念

 そんな中で発生したのが、2024年元日の能登半島地震です。山本氏自身は地震当時東京に帰省していましたが、被災地の状況を知り、居ても立ってもいられず、地域の仲間と共に支援の動きを始めます。1月10日にはボランティア受け入れ拠点を立ち上げ、倒壊家屋からの物品レスキューや仮住まい支援、子どもの見守り活動など、幅広い支援活動を展開しました。

 こうした中で2024年2月9日、「のと復耕ラボ」が正式に設立されます。この団体名には、単に復興を目指すのではなく、「耕す」ことで地域に新たな命を吹き込み、未来の暮らしを“実験”していくという思いが込められています。復興とは新しいものをつくるだけでなく、元々地域にあったものを見つめ直し、未来につなぐ行為でもあると山本氏は語ります。


「支援」から「循環型の暮らし」へ

 1年余りにわたり続けてきた復旧活動も、2025年春には次のステップとしての「復興」へと舵を切りました。今後は「循環型の暮らし」を構築し、地域の自立と再生を実現していくことが目標です。講演では、その具体的な取り組みが紹介されました。

  1. 地域資源を活かした水の循環
    山梨大学と連携し、地域の湧き水や沢水を利用した生活水の確保プロジェクトを推進。遠くの浄水場から電気と配管を使って水を供給していた従来の方式から脱却し、持続可能な暮らしの構築を目指しています。
  1. 自伐型林業と山の再生
     森に人の手を再び入れるため、自伐型林業を導入。地域内外から参加者を募り、山道整備や伐採の講習を行うことで、安全で活用可能な里山づくりを進めています。山を手入れすることは、防災力の向上にも直結します。
  1. 子どもの遊び場づくり
    CFA(チャンス・フォー・オール)と連携し、森の中に子どもたちが自然と触れ合える遊び場を創出。震災以前から外で遊ぶ機会が減少していた子どもたちに、「遊ぶ力」と「自然へのまなざし」を取り戻す場を提供しています。
  1. 古民家再生とリユース
    震災による解体が進む中、築100年を超える古民家の貴重な部材をレスキューし、家具や建材へとアップサイクル。解体予定の大邸宅を拠点施設として再生し、未来の暮らしを学ぶための場として活用予定です。

暮らしの豊かさを共有するために

 山本氏は、震災によって一時は地域から離れることを考えたと振り返りながらも、支援に訪れた人々の想いや助け合いの姿に触れる中で、再び能登の地で生きる覚悟を決めたと述べました。そして、「生きる力」を高め合う場として、地域の中に循環する暮らし、食、エネルギー、手仕事の知恵などを根付かせる必要性を強調しました。

 彼が描く未来とは、誰もが自然とともに暮らし、支え合い、学び合いながら共に生きる社会です。そしてその原点は、「感動する朝食」にあると語ります。それは、畑から採れたての野菜を、地域の人の想いとともに味わった、かけがえのない体験でした。このような体験を現代の人々に伝えることこそが、山本氏のミッションでもあるのです。


おわりに

 のと復耕ラボの活動は、単なる災害復旧ではなく、「未来をどう暮らすか」という根本的な問いに向き合う実践です。山本氏の語る「耕す復興」は、人と人との関係、自然との関係、そして過去と未来との関係を編み直す試みでもあります。

 能登で起きているこの再生の試みが、日本全体にとっても学びとなり、新たな地域社会のモデルとなっていく可能性を強く感じさせる講演でした。

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