第19章 ‘のと・おん’ で見えたこと

「のと復興音楽ツアー」は2025年2月9日(日)の能登町、2月11日(火祝)の七尾市、3月16日(日)の珠洲市、5月18日(日)の輪島市、9月21日(日)に輪島市の中で大本山総持祖院がある輪島市門前町を追加して合計5自治体で実施した。
 8月23日(土)には大阪・関西万博での発表の機会を得ることができ、これまで実施した能登町、七尾市、珠洲市の3つのグループ122人を万博に招待して内外に発表する報告会を行った。輪島市ではすでに実施済みなのだが、門前町は特別な思いがあり、最終回として加えることになった。
 能登半島地震からの「創造的な復興」は、地元の人達の踏ん張りと、新たに文化や産業を継承する若者、移住者や関係人口の増加によるもので、その創造的な行動力は ‘人の熱量’ に依存する、と当初は考えていた。しかしながら、個人個人がそれぞれ独自の被災体験を持ち、生活の方針が揺らいでいる中では、それほど単純な話ではなかった。それでも、各地のリーダーの方々の心に刺さり、共感を得て参加者の心に残ったと感じることも多かった。
 能登町では、中学、高校生徒と大人が一体になって練習を重ね、体育館の床張、暖房器具の導入など能都中学校には大変な作業をやっていただいた。輪島市では、太鼓団体の皆さんがチラシの全戸配布をやってくださった。七尾市の太鼓チームは、2月には7チーム、8月の万博では13チームと広がって、地元では盛大な壮行会が開催され、万博向けの新曲を披露した。万博会場では猛暑の中午後3時の演奏、倒れないかと心配なステージだったが、次々と観客が集まって大きな盛り上がりを見せ、私には決して忘れられないシーンとなった。
 3月の珠洲市では、すず吹奏楽団の辻団長が以下のように挨拶された。
「珠洲市音楽協会は今年50年。すず吹奏楽団は結成14年目を迎えることができました。令和6年1月1日の能登半島地震発災以降、何をどうすればよいのかもわからず、ただただ時間だけが過ぎていきました。そんな中、何人かの団員が音楽の力を信じ、避難所等で独自の演奏活動を行い、被災した皆さんに勇気を与え続けていました。5月、「この団を無くしてはいけない」との思いで練習を再開しました。活動は思うようには進みませんでしたが、1人、2人と活動を再開する人が増えていったことは大変嬉しく、力強さを感じました。9月に起きた奥能登豪雨は私たちの生活や活動にさらに追い打ちをかけてきましたが、10月27日には「珠洲吹奏楽祭2024」を開催することができました。その後も互いに助け合い、今日を迎えることができています。「天地人」との共演にメンバーそれぞれが、精一杯の演奏を聴かせてくれると思います。どうぞ、お楽しみください。」
 そして最終回の門前町、珠洲市から応援で参加された演奏者の方の言葉。
「震災があってから、たくさんの芸能人や音楽家たちが来てくれて、被災した人たちのために色んな演奏を聴かせてくださいました。それ自体はとてもありがたいことです。でも一方で、私たちもプレイヤーなんです。音楽を奏でたいんです。能登の子供達は、学校が避難所になり、金沢などに集団避難しました。その時、楽器は持っていけなかった。演奏したくても、できない環境になってしまった。本当は演奏したくて堪らなかったはずです。そんな時に、『地元の人たちと一緒に奏でる』というコンセプトの『のと・おん』がやって来たんです。私たちが待っていたのは、まさにこれでした。プロのミュージシャンと一緒にステージに立てることが決まり、子供達ももちろん、大人達もみんな必死になって練習しました。みんなの目つきが変わりました。地元でのステージも、万博でのステージも、本当に貴重な経験をさせていただき、本当に楽しかったです。」

 奇しくもあの豪雨の日からちょうど1年となったこの日。
 門前高等学校の体育館には、地元の方を中心に150の方々が集まってくれた。
 最初に1年前の豪雨の被害者の方に黙祷から始まった。

 他の会場より若い方が少ない感じだったが、高齢の皆さんは、太鼓、獅子舞、吹奏楽を奏でる子供たちに惜しみない拍手を送り、「天地人」の演奏では立ち上がり、踊る方までいらした。

 我々には見えないところで、何かが動き、若い演奏家たちがやがてあの時の「天地人」との演奏会をきっと思い出してくれることだろう。

最後の主催者スピーチは以下の通り:
 「のと復興音楽ツアー」は当初昨年11月に能登町で開催予定でしたが、ちょうど1年前の豪雨被害によって延期され、今年の2月9日開始になりました。2月11日七尾市という合間に足を延ばして雪の門前町で總持寺に高島副監院様を訪ねました。私は横浜市鶴見区で生まれ、今も住んでいますので、能登の總持寺祖院の被害を気にしていました。門前町では能村總持寺通り共同組合長や畠門前高校校長先生にお会いし、「天地人」との演奏会の意義を理解いただきました。ここの学校や吹奏楽団は小さいですが、頑張っています。太鼓や獅子舞を子供達も参加して継承に心しています。大切な總持寺、能登の心に中心の町の復興は、能登の未来であり、日本の未来であると信じます。」

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