「北海道立北森づくり専門学院」の皆様、本日はお話しできる機会をありがとうございます。
皆さんが普段あまり接することがないことを学ぶという趣旨でお話を、ということですが、私は35年間、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下日本IBMと略)という外資系のIT企業で、全国の中堅のお客様のシステム開発の仕事や個人ユーザーも含めたパソコン事業など経験しました。IT業界は常に新しい技術革新がビジネスを生み続けるというとても変わった業界で、地面に根付いた皆さんの産業とは対極になります。
私の時代はパソコンとインターネットの始まりの時代、今はスマホやAI、とIT企業の商品は常にその道具が進化し続けています。皆さんは森、木という自然を相手にしながら、そうした時代で変化する道具を使いながら次の世代に ‘バトンを繋ぐ’ 産業です。
ほとんどの企業が30年でなくなるのが普通の時代に100年を見据えて取り組む林業には夢とまた難しさがあります。IT分野では、AIがどのような影響が及ぶのか、大きな変化が来ようとしています。しかしIT産業はあくまでも皆様の道具を進化させ続ける裏方です。
広大な北海道では農業分野でもドローンや自動化を進めている最先端の場所であり、林業を学ぶ機会としてはテクノロジーの追い風を受けながら実践できる最適な環境ではないかと想像します。
さて経営という意味では、日本IBMは企業としての利益の追求がまず基本ではありますが、日本の社会への貢献も考えた経営に努めて来ました。
現社長の山口明夫さん(実は元部下でした)は今回経済同友会の代表幹事になりました。私の元上司の北城恪太郎さん以来、2度目の就任です。IBMは日本の次世代半導体メーカーであるラピダスへの2nm(ナノメートル)プロセス技術の提供を行い、京都にその開発拠点を置いています。ラピダスからは150人のエンジニアがIBMのNY州の研究所に滞在し、北海道千歳市に工場を建設して2027年から2028年にかけた量産を目指しています。株式会社は利益を上げる存在でなければ後継されていかない宿命があります。大きな事業、それも世界的な事業で必要となる巨大なお金は世界中の株主の存在が不可欠です。ラピダスは政府も大きな支援をしており、日本独自の国策会社のような感じです。この会社の推移は政治的にも大きな影響があるプロジェクトです。私の日本IBM時代のお話はお配りした「老いてからでは、遅すぎる」を後ほど見ていただいて、自己紹介を続けます。

私の木との接点は、冬の間1日5時間ぐらいお世話になる薪ストーブ用の薪作りです。
今は体力的に楽な電動のチェンソーと電動の薪割り機を使っています。薪は、家の古木が倒れたこともあるのですが、植木屋さんが木を捨てに来られます。それで、薪ストーブ生活は15年になりますが薪にお金を払ったことはありません。植木屋さんは、都会で木を捨てるのにお金を払うぐらいなら堀田さんのところに捨てに来ていただければ節約できるわけです。
私は日本みつばちの養蜂もやっています。都会で誰もやらないことを継続するのはとても楽しいことなのです。誰もやらないことを ‘おもしろい’ として、やろうとするブルーオーシャン戦略は、私の考え方、生き方の基本です。

薪ストーブは、鍛鉄芸術家であり、友人の加成幸男さんの作品です。

偶然にも先週、東洋経済オンラインに、加成さんのストーリーが紹介されました。(https://toyokeizai.net/articles/-/933682?display=b)
2024年、イタリア・シチリア島で開かれた100人以上の鍛冶屋が集う国際大会「サン・マルコ・アイアン・フェスト」では金賞を受賞した彼は、元・消防署のレスキュー隊員。20代で鍛冶屋の世界に弟子入りし、全財産が5000円になったことも。多分私が出会ったのもその直後、彼のデザイン感覚が良くて、我が家に20くらいの作品がありますが、まだ安かった頃(笑)に作っていただいてラッキーでした。
熱中小学校プロジェクトでも加成さんにはお世話になりました。台風19号の被害があった宮城県丸森町では、復興した阿武隈急行の「あぶくま駅』のガンバッぺベンチです。
ベンチの木は、1本は新品ですが、もう1本は洪水で流された木から製材しました。


これは我が家のリビングですが、テーブル、椅子、ボード、長椅子は15年くらい前に旭川のカンディハウスさんから購入しました。カンディハウスは横浜みなとみらいにショールームがあり、30年くらい前にソファセットを買って気に入っていました。
一枚板の机が欲しいと、旭川の工場に板を探しに行きました。そこで、この作品のパンフレットを見せられて既製品に決めました。ドイツのデザイナーによるスチールと木の組み合わせたとてもガッチリした作品で、とても気に入っています。製品というより、作品として使っています。カンディハウスさんの国産材使用率は3分の1だそうです。ひょっとしたら皆さんの関係する森の木が横浜のこの家で毎日息を吸っているかもしれません。
私が材料生産者まで思いを持っていないのと同様に、林業の生産者の方もお客さんの生活環境など知りえないかもしれません。でもあえて言いたいのは、ずっと先でもお客様のことを考えよう、ということです。
本日お話をする私が、もしかしたら今の、そして将来の皆様のお客様であるかもしれないという想像力を持つようになるには何が必要でしょうか?

そうした感受性はどのようにして育つのでしょうか?
私は他人の力で自分が何者かがわかり、良さを磨いていけるような ‘学び’ の環境が大切だと考えています。
2番目にお話したいことは、自分のことがわかるためには他人の好意が必要で、皆様が人生でどれだけ多様な人達と共に遊び、学ぶことが出来るのか? に挑戦して欲しいと思います。そのような大人の社会塾として、地方で「熱中小学校」を運営しています。
熱中小学校の仕組みについては、 私のWebのエッセイ「第20章 熱中小学校プロジェクトとは何か?―2025年9月30日 Sustainable Japan Award 2025 受賞記念講演から―」 (https://www.korobocl.com/osokunai/020-2/)にまとめていますので参照ください。
熱中小学校は、北海道では白老町と十勝にあります。それぞれの学校の運営は自立、独立していて、16の学校がネットワークでつながっている、自立分散型ネットワークという珍しい経営形態です。

皆さんは現在、学校という決められたルールやカリキュラムの中で、職業としての林業を技術的なところを確実にマスターする真っ只中におられるわけですが、生徒さんの出身地や、キャリアは様々でしょう。社会人として活躍する中にも、多様な人々から学び、学びあう仲間を求めていただきたいと思います。熱中小学校は、皆様の学校と違って、入学したら取れる資格はありません。人から学ぶ学校です。
『面白いのは、一貫して、何かを教えてもらえるわけでも、なんの資格が得られるわけでもなくすべては自分しだいだよと、めちゃくちゃ強調されてたこと。うん、でもほんとにそうなんだよね
先週、宮城県美里町で新しい熱中小学校を創るための生徒募集のオープンスクールがありました。詳しくは私のエッセイ「第28章 みやぎ美里熱中小学校オープンスクールスピーチ「未来を自分色に…」」(https://www.korobocl.com/osokunai/028-2/)を見ていただきたいのですが、これに参加していた熱中小学校の先生のまきりかさんの、終了後のFacebookコメントがこの学校をうまく言い当ててくれています。
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私は、熱中小学校ほぼすべてを回り、生徒さん達と校歌をつくる授業をしてきた。熱中小学校で人生が変わった人を何十人も何百人もみてきた。なんなら私自身もその1人。もはやライフワークと言って良い^_^
熱中小学校は入ってみなければわからない。何かを誰かがお膳立てしてくれるわけでもない。そこで何を得るかは自分自身だし、何に喜びを感じるかも人それぞれ。でもここには確実に何か、いまの自分が思いもよらない未来がある。
でもじゃあ、どんなところなんですかと聞かれると
説明できないんだよね^_^
この場がある、としか言えない
何が得られるんですかと聞かれたらもっとわからない
多分そういう聞きかたをする人はわからないままかも知れないから。』
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「熱中小学校」で自分のプラス面というか肯定的な面を知った方々は、新しい仕事を始めたり、今の仕事のやり方を変えるようになっています。‘なんでも挑戦していいんだ’ という気持ちが芽生えてくるようです。熱中小学校の10周年記念誌では「とかち熱中小学校」の5人の生徒さんが学校について語ってくれました。


さて、熱中小学校は能登半島の復興支援を株式会社内田洋行の創立115周年支援事業としてスポンサーになっていただき、「のと復興音楽ツアー」を能登半島各地で行いました。元オフコースのドラマーで熱中の先生である大間ジローさん率いる「天地人」が能登半島の5か所で地元の皆さんとコラボ演奏を行いました。
たくさんの演奏家や音楽家の皆さんが、能登半島に向かいましたが、私たちは現地の演奏家の方々とのコラボ企画にこだわりました。

「のと復興音楽ツアー」は、5か所の自治体と大阪・関西万博会場と、全部で6回開催しましたが、能登半島としては最後、輪島市門前町での第5回目で、私たちはこのツアーの本質を知ることになりました。(第19章 ‘のと・おん’ で見えてきたこと https://www.korobocl.com/osokunai/019-2/)
ぜひ、珠洲市から応援で参加された演奏者の方の言葉を見てください。

第8章 駅伝と日本人―タスキを渡す(https://www.korobocl.com/osokunai/008-2/)
第17章 能登の汗は、日本の汗! (https://www.korobocl.com/osokunai/017-2/)
さて、大阪。能登支援プロジェクトは、100人以上の能登半島の中学、高校、社会人の太鼓や吹奏楽奏者の皆様を関西万博にお呼びするプログラムでヤマを迎えました。

2025年8月23、24日という酷暑の中、汗だくでの演奏会でしたが、救いは大屋根リングと海からの風でした。人々は屋根の下で休み、歩き、私の万博のイメージは大屋根リングですっかり変わりました。リングの上には遊歩道と植物が植えられ、会場の中央にはリングと連動した自然の庭がありました。上空から見ると、中央の自然とリングのデザイン、その間に様々なパビリオンが並んでいます。その両方を歩くと、新しい万博のイメージを感じました。

大きな規模感と木の構造物の親近感。全周約2km、高さ約20mの巨大な木造リングが会場をひとつに繋ぎ、万博のコンセプトを体現し、歩きの体験などとても魅力的でした。大屋根リングの材料は国産材、北欧輸入材の混合だそうですが、現在解体中の部材がどうなるのか? 再利用されるのかがとても気になります。一部は横浜の花博などで使われるという話がありますが、木の命が何十年というものが半年使われて廃棄されるのではちょっとやりきれません。国際的な大会で利用される材料、食材などは世界基準の厳しさがあります。
切った木の後の山はどうなっているのか? このまま捨てることを前提に使ったのか?
皆さんのこれからの活動環境は複雑です。北欧の技術も学べるという皆さんの学校は林業の海外情報と共にとても貴重です。違った世界の仲間をたくさん持ち、学びを継続する皆様の前途はきっと楽しいに違いありません。北海道への期待はますます高くなっていく時代になりました。今度はぜひ旭川の学校を訪問させてください。

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