第75章 覺正寛治さんが教える「体を張って、ちょっと間をとって」

 覺正寛治さんは労働省(現在の厚生労働省)入省後、本省と地方の出先部門を行ったり来たりしながら30年勤められた。「ユニークな元官僚が居る」と、福島県三島町の建設会社の社長様から熱中小学校の先生にと推薦されて、7年間にわたり全国各地を回っていただいている。

 労働関係の政府の仕事のうち労働基準監督署は人事面でのブラック企業を摘発するという警察的な要素があり、ハローワークでは仕事を探してあげるという、いわば上から目線になりがちな職場だ。

 出先の責任者として覺正寛治さんは、前例のないことに挑戦しようとされてきた。

「前例がない」を示すのが、「誰か前例を最初に作った人がいる、その最初の人になれ」と、地下鉄サリン事件で被害に遭われた4,000人近くの会社員に通勤途中での労災認定を認めたことは労働省専門官時代の勲章だ。

 さて、その覺正寛治さんの授業では一貫してパワーポイントを使わない。

紙、本や新聞記事を広げて生徒に大きな声をあげて迫ってゆく
2023年12月、高畠熱中小学校の授業。手にするのは地下鉄サリン事件の新聞報道

 畳まれた新聞や紙を広げながら、ちょっと間をとるのもパワポのプレゼンには真似のできない技だ。

 パワポを使わないのは、 ‘熱中小学校’ という「7歳の生徒」に紙芝居を連想してのものだとおっしゃるが、継続しているのは人のやらないことをやり続けるという心がけからだろう。

 覺正寛治さんにぜひ聞きたかったのは、日本の少子化問題改善のキーの一つは企業の職場の改革の問題ではないか? ということだった。昨年12月24日のNHK日曜討論に、熱中小学校の特別教諭で現在内閣府の少子化問題担当の参与であられる山崎史郎さんが登場した。覺正寛治さんの授業でも山崎史郎さんの著書『人口戦略法案 – 人口減少を止める方策はあるのか』を取り上げて、これからの厳しい日本の人口環境を話してこられた。

 山崎史郎さん、覺正寛治さんが訴える少子化問題転換の本質は、日本人の働き方の生産性の低さと習慣だ。これを、企業がらみで抜本的に解決する ‘働き方改革’ そのものを、労使関係のプロとしてどう判断されているのか? ということにとても興味があった。

 国会で議論されている学校の授業料無償化といったお金の議論も重要だが、男女が助け合いながら、男女平等や賃金格差などといった環境をあらゆる職場で改善することをなくして北欧などの事例のたたき台には乗らないのだ。その意味で少子化問題は我が国の精神文化の戦いでもある。

 覺正寛治さんは労働省入省時にお父様から、「働くことは ‘はた’ を楽にすることだ」と諭されたという。その教えを、しばらくは「働くことは、緊急事態の今の日本では当面女性を楽にしてあげることだ」と話し続けていただきたく、これからも期待しています。

覺正寛治さんのインタビュービデオはこちら:

「食の熱中小学校」はこちら

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です