2026年3月9日、ちば銚子熱中小学校(銚子マリーナ会議室)にて、第12回のと熱中授業が開催されました。
今回のテーマは「能登を醸す ― 酒蔵から見える、風土・人・復興」。日本酒愛好家として「松浦日本酒会」を主宰する松浦真弓先生を講師に迎え、能登の酒造りと震災からの歩みについての授業が行われました。日本酒という文化を入口に、能登という土地の風土や暮らし、酒蔵の人々の思い、そして震災からの復興の姿を見つめる内容となりました。
日本酒愛好家として能登を案内する

講師の松浦先生は、自身をこう紹介しました。
「酒蔵の人でも、能登出身でも、日本酒の専門家でもありません。ただの日本酒愛好家です。」
松浦先生は全国約780名の会員が参加する日本酒コミュニティ「松浦日本酒会」を主宰し、日本各地の酒蔵と交流しながら日本酒文化の魅力を発信しています。
今回の授業で松浦先生は、日本酒の専門家という立場ではなく、日本酒を愛する一人の案内人として能登の酒蔵を紹介しました。2025年夏に奥能登を訪れて行った現地取材をもとに、能登の酒蔵の現状と復興の歩みが紹介されました。
日本酒を通して土地を見る
授業の前半では、日本酒の基礎についての解説が行われました。
日本酒の原料は、
- 米
- 水
- 麹
の3つです。
米を蒸し、麹を作り、酒母を育て、もろみを発酵させ、搾る。こうした工程を経て日本酒が生まれます。日本酒は保存が効く米を原料としているため、年間を通した醸造が可能で、四季折々の味わいを楽しむことができます。松浦先生はこう語りました。
「お酒は、その土地の水や気候、人の技術がすべて表れます。だからこそ、日本酒を見るとその土地の文化や暮らしが見えてくるのです」
石川県の酒文化と能登杜氏

授業では、石川県商工労働部産業政策課から野崎氏、栂氏、高村氏が銚子まで駆けつけ、石川県の酒文化や震災後の取り組みについて紹介が行われました。
石川県には現在36の酒蔵があり、そのうち11蔵が能登地域にあります。能登の酒造りを語る上で欠かせない存在が「能登杜氏」です。南部杜氏、越後杜氏、但馬杜氏と並ぶ、日本を代表する杜氏集団の一つです。
能登杜氏の酒は、米の旨味をしっかりと感じる「旨口」の酒が特徴です。華やかな香りよりも、食事とともに楽しめるバランスのよい味わいが特徴とされています。
震災後、石川県では酒蔵の再建支援にも取り組んでいます。設備を失った酒蔵が他の酒蔵の設備を借りて酒を造る共同醸造の取り組みもその一つです。
そしてこんなエピソードも紹介されました。
「被災した酒蔵を一つにまとめて新しい蔵をつくればいいのでは、という意見もありました。しかし酒蔵にはそれぞれのストーリーや歴史、伝統、そして土地の文化があります。だからこそ、それぞれの蔵が続いていくことが大切なのです」
そうして現在、能登の酒蔵はそれぞれの形で酒造りを続けています。
石川県からの説明のあと、授業は再び松浦先生のパートに戻り、その歩みを象徴する三つの酒蔵の事例が紹介されました。
三つの酒蔵、それぞれの歩み
今回の授業では、奥能登の三つの酒蔵の取り組みが紹介されました。それぞれの蔵元から寄せられたビデオメッセージを通して、震災後の現状と未来への思いが語られました。

白藤酒造店 ― 同じ場所で酒を造り続ける
最初に紹介されたのは、輪島市の白藤酒造店。代表銘柄は「奥能登の白菊」です。お話しされたのは、社長兼杜氏の白藤喜一さん。輪島にある白藤酒造店は江戸時代末期から続く老舗で、2007年の能登半島沖地震でも全壊を経験し、その後再建された蔵でした。しかし今回の震災で再び大きな被害を受けました。
白藤さんは映像の中でこう語りました。
「店舗や倉庫、設備もほとんど使えない状態になりました。しかし全国から『お酒を待っている』という声をいただき、なんとか期待に応えたいと立ち上がりました」
米を蒸すための釜場は壊れてしまいましたが、東北の職人たちが駆けつけ、数か月をかけて修復が行われました。2025年3月、甑から蒸気が上がった瞬間は「言葉にならない感動だった」といいます。同じ土地で、同じ水で酒を造り続ける。それが白藤酒造店の選んだ復興の道でした。
鶴野酒造店 ― 未来につなぐ酒造り
次に紹介されたのは、能登町鵜川の鶴野酒造店。代表銘柄は「谷泉」です。お話しされたのは、社長の鶴野晋太郎さん。震災によって酒蔵、店舗、住居のすべてが倒壊し、200年以上続いた酒蔵は壊滅的な被害を受けました。鶴野さんは当時の思いをこう振り返ります。
「地震が起きた時は、もう会社を畳まなければいけないと愕然としました。」
現在は長崎や金沢などの酒蔵と連携し、各地の酒蔵で酒を造る共同醸造という形で酒造りを続け、新しい技術を学び、経験を積み重ねています。鶴野さんはこう語りました。
「共同醸造のおかげで、これまでとは違う酒造りの世界を見ることができました。再建した際には、進化した新しい酒造りにも挑戦したいと思っています。」
能登で再び酒を醸す未来を目指し、酒造りは続いています。
松波酒造 ― 酒蔵を再定義する挑戦
三つ目に紹介されたのは、能登町の松波酒造。代表銘柄は「大江山」です。お話しされたのは、若女将の金七聖子さん。震災によって蔵や店舗は全壊しましたが、クラウドファンディングで200人以上の支援を集め、トレーラーハウスによる仮設店舗を立ち上げました。金七さんはこう語ります。
「酒蔵は建物ではなく、人が集まる場所なんです」
酒蔵の跡地では、日本サッカー協会と連携した子ども向けキッズピッチ造設の計画も進んでいるそうです。
「急がなくていいので、いつかゆっくり能登を訪れ、遊びに来てください。今日飲んでもらっている一杯が、私たちの力になります」
酒蔵を「人が集まる場」として再定義する。それが松波酒造の新しい挑戦です。
続け方は、一つじゃない
授業の最後に松浦先生は、三つの酒蔵の歩みをこう整理しました。
- 白藤酒造店 … もとの場所で立て直す
- 鶴野酒造店 … 未来へつなぐ
- 松波酒造 … 酒蔵を再定義する
続け方は、一つではありません。復興とは単に元に戻すことではなく、それぞれの土地や人の思いによって新しい形が生まれていくものです。松浦先生はこう締めくくりました。
「能登を醸しているのは、酒蔵の人だけではありません。この土地を思い、関わるすべての人が、能登の未来を醸しているのです」
能登の酒蔵は、今もそれぞれの道を歩み続けています。その一杯の酒には、土地の歴史と未来への希望が静かに醸されています。酒蔵の人々や地域の人々、応援する人。そうした思いが重なりながら、今日もまた「能登を醸す」営みが続いています。

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